
海辺に咲く花たち
ハマユウ、ハマエンドウ
私達の住むこの国は、四方を海に囲まれている事は言うまでもありません。 ただ、その海辺に咲く花たち、つまり海浜植物の種類にもとても恵まれている事を皆さんご存じでしょうか? 例えば、海辺に咲く花の代表花とも言えるハマユウ。原産はインド。太陽に向かってすくっと伸びたヒガンバナ科の純白の花は、強い香りを辺りに漂わせます。別名は浜万年青(はまおもと)。大きなその葉がオモトに似ている為です。日本に渡って来たのは遠い昔、また「万葉集」の時代です。柿本人麻呂が み熊野の浦の浜木綿百重なす 心は思えど直に逢はぬかも と詠んでいます。その他にも和泉式部、藤原定家、石川啄木など数々の歌人や文豪がこのハマユウを愛し、歌の中に取り入れてきました。青い海をバックにたたずむその細くゆらゆらと揺れる白い花びら。日本人の心には一見明るく爽やかなイメージとはうらはらな、切ない恋の叙情を託したくなる姿に映ってきたのでしょう。枯れゆく花と、次に咲く花が同時に1本のハマユウに付いているのもその印象を強めているのでしょうか。 このハマユウ、晩春から夏に関東以西の本州、四国、九州、沖縄などで見かける事ができます。神奈川県の自然教育園や、静岡のスイセンで有名な爪木崎、宮の堀切峠などハマユウの美しい群生の名所は数多く存在します。 また、これからの季節であれば、ハマエンドウが紅紫色のじゅうたんを広げた様に美しく砂浜を彩ります。分布も広く、北海道から九州までたいていの砂浜で見かけられます。また日本だけでなく、北アメリカ、チリ、ヨーロッパ、アジアの各地の砂浜にも広がります。見た目の姿はハマエンドウという名の通り、マメ科の植物で、花びらの形は蝶形花と言ってラティルス属のスイートピーに似た愛らしい花をつけます。はじめ紅紫色をしていて、次第に青色に変わっていきます。エンドウに似た5cm位のさや果をつけ、熟してしまうと固くなってしまいますが、若い実は莢ごと食べることもできます。早春の新芽は和え物にしたり、若葉を天ぷらにしたりと食用としてもなかなかものです。 また、海辺の花の中でも随分長い間花を咲かせていることでも知られ、4月から7月、場所によっては10月頃まで見かけることもできます。 ハマエンドウは見た目の可愛らしさから鉢植えとして、庭植え用としても人気があり、園芸店でも手に入れることができます。 今回ハマユウとハマエンドウを紹介しましたが、これらの植物にはその海辺という厳しい自然条件から身を守り、生息していく為の知恵を備えもっています。 
ハマエンドウ ハマユウは、横しわの多いやや太い柔らかい根を数多く地中に這わせ、潮風に立ち向かっているのです。また逆にその風を利用するかのように種は非常に軽く、次の生育地をふわふわと舞い求めます。 ハマエンドウにしても、海浜植物に多く見られる様に、丈は低く、根は砂浜を這うように広げ、潮風から身を守っているのです。 こんなけなげで美しい海辺の花たちの群生楽地が減少しつつあると言います。こんなところにも人間の手が伸び、保護地域にしなくてはならない悲しい状況にあるのも現実です。 ぜひ皆さんの目でこの可憐でありながら力強い花たちを、海岸を散策しながらでも1度捜してみてはいかがでしょうか。 矢澤 智子(やざわ ともこ)。1968年生まれ。 “Rose T(ローズ ティー)”チーフデザイナー。 イベント、ショップディスプレイ、ブライダルetc.花のコーディネイト全般に携わる1995年よりアートフラワーの新しいスタイルを求め、シンガポール等海外に直接花や資材の買い付けを始め、同時に現地でのデザインを学ぶ。現在シンガポールでの大手レストランのディスプレイ、ブライダルもコーディネイトしている。 恵比寿にあるティアラフラワーデザインスタジオの講師としても活躍中。 生け花、アートフラワー、花に関するお問い合わせ先 Rose T 東京都港区東麻布1-16-10 松縄ビル202 TEL./FAX. 03-3224-9024
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